名古屋地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決 1991年2月27日
原告
太平建設工業株式会社
右代表者代表取締役
川合康弘
右訴訟代理人弁護士
野島達雄
同
中村弘
被告
名古屋市
右代表者市長
西尾武喜
右訴訟代理人弁護士
鈴木匡
同
大場民男
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、六三万七六〇〇円及び内七万七八九〇円に対する昭和六一年五月二日から、内七万七五〇〇円に対する同年七月三一日から、内七万七五〇〇円に対する同年一二月二七日から、内七万七五〇〇円に対する昭和六二年三月一日から、内八万一八一〇円に対する同年五月八日から、内八万一八〇〇円に対する同年八月七日から、内八万一八〇〇円に対する同年一二月三〇日から、内八万一八〇〇円に対する昭和六三年三月九日から、各完済に至るまで年7.3パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有している。
2 名古屋市千種区長は、名古屋市長の委任を受け、原告に対し、本件土地につき、昭和六一年四月五日付で同年度分の固定資産税・都市計画税につき税額を三一万〇三九〇円とする賦課決定処分(以下「第一処分」という。)を行った。
3 原告は、被告に対し、第一処分に基づき、昭和六一年度分の固定資産税・都市計画税三一万〇三九〇円を、次のとおり支払った。
(一) 昭和六一年五月一日 七万七八五〇円
(二) 同年七月三〇日 七万七五〇〇円
(三) 同年一二月二六日 七万七五〇〇円
(四) 昭和六二年二月二八日 七万七五〇〇円
4 名古屋市千種区長は、名古屋市長の委任を受け、原告に対し、本件土地につき昭和六二年四月六日付で同年度分の固定資産税・都市計画税につき税額を三二万七二一〇円とする賦課決定処分(以下「第二処分」といい、第一処分と併せて「本件各処分」という。)を行った。
5 原告は、被告に対し、第二処分に基づき、昭和六二年度分の固定資産税・都市計画税三二万七二一〇円を、次のとおり支払った。
(一) 昭和六二年五月七日 八万一八一〇円
(二) 同年八月六日 八万一八〇〇円
(三) 同年一二月二九日 八万一八〇〇円
(四) 昭和六三年三月八日 八万一八〇〇円
6 しかしながら、本件土地は、以下のとおり、地方税法(昭和二五年法律第二二六号。)三四八条二項四号に規定する「墓地」該当する。
(一) 地方税法三四八条二項四号が、墓地を固定資産税及び都市計画税の賦課の対象としなかったのは、墓地が死者を弔い、礼拝する場所であり、社会生活上欠くべからざる場所であり、その維持管理が公益の増進に深く関わっているからであって、これからすれば同号にいう墓地に該当するかどうかは、専ら実際の使用形態において、右のような死者を弔い、礼拝する場所として使用されているかどうかで判断すべきである。
(二) 本件土地は、大日寺(旧浄土寺)の住職であった隈谷秀盛の所有地であった旧地番名古屋市東区鍋屋上野町字南山三二七六番の三六の山林一反一畝の一部分であり、同寺の墓地ないし境内地として一体的に使用されてきたものであって、現在でも、本件土地の一部には、軍人墓石等が存在し、毎月法要が行われている。
(三) したがって、本件土地は、死者を弔い、礼拝する場所として使用されているということができ、地方税法三四八条二項四号の墓地に該当する。
したがって、本件土地には固定資産税・都市計画税を賦課できないにもかかわらず、これを賦課した本件各処分には、重大かつ明白な瑕疵があるから、本件各処分は無効である。
7 よって、本件各処分に基づき原告が被告に納付した前記3、5項に記載の各金員は、誤って納付されたものであり、被告はこれを法律上の理由なく利得したことになるから、原告は、被告に対し、原告の誤納に係る右各金員の返還及び納付の日の翌日から各完済に至るまで地方税法一七条の四第一項所定の年7.5パーセントの割合による還付加算金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし5の事実は認める。
2 同6、7の主張は争う。
三 被告の主張
1 本件土地は、以下のとおり、地方税法三四八条二項四号に規定する墓地に該当せず、したがって、本件各処分には、重大かつ明白な瑕疵はない。
(一) 大量・反復事務である固定資産税の課税事務においては、公平・迅速の観点から、当該土地が地方税法三四八条二項四号に規定する墓地に該当するか否かについては、外形的事実から一律かつ客観的に判断する必要がある。
(二) この客観的判断を行う指標としては、墓地、埋葬等に関する法律(昭和二三年法律第四八号。以下「墓地法」という。)の規定を用いるのが合理的であるところ、同法二条五項では、墓地とは「墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事(同法一九条の三により、名古屋市にあっては、名古屋市長。)の許可を受けた区域をいう。」と規定されているが、本件土地は、墓地法にいう墓地としての許可を受けた区域ではない。
四 被告の主張に対する原告の認否及び反論
(認否)
すべて争う。
(反論)
課税事務が、大量・反復事務であることは、相続税の課税事務においても同様であるところ、相続税法一二条一項二号で非課税財産とされている「墓所」の解釈については、相続税法基本通達一二―一によれば、「墓地、墓石及びおたまやのようなもののほか、これらのものの尊厳の維持に要する土地その他の物件を含む」とされ、同通達一二―二では、「これらに準ずるもの」として「庭内神し、神たな、神体、神具、仏壇、位はい、仏像、仏具、古墳等で日常礼拝の用に供しているものをいう」とされ、専ら、その使用の実態に着目して解釈適用されているのであるから、被告主張のように、大量・反復事務であることから、地方税法三四八条二項四号の「墓地」の解釈を墓地法の定義と同様に解釈しなければならないことにはならない。
五 原告の反論に対する被告の認否すべて争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1ないし5の事実は、当事者間に争いがない。
二そこで、本件土地が、地方税法三四八条二項四号に規定する「墓地」に該当し、したがって本件各処分が無効であるとする、原告主張(請求原因6)の当否について、判断する。
1 <証拠>によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。
(一) 対象土地が、地方税法三四八条二項四号の「墓地」に該当し、固定資産税・都市計画税の非課税土地であるかどうかの判断については、当該対象土地が墓地法の定義する墓地に該当する場合にのみ、右地方税法の「墓地」に該当すると取り扱うのが、従来からの全国の行政実務であり、名古屋市千種区長も、右取扱い基準に従っていた。
(二) 本件土地は、本件各処分当時、墓地法二条五項にいう「墓地」として同法一〇条、一九条の三による名古屋市長の許可を受けた区域ではなかった。
(三) そこで、名古屋市千種区長は、前記取扱い基準に従い、本件土地を地方税法三四八条二項四号の「墓地」に当たる非課税土地として取り扱うことをせず、本件各処分を行った。
2 右のように地方税法三四八条二項四号の「墓地」を墓地法二条五項の「墓地」と同義に解した被告の取扱いは、以下に述べるとおり、明らかに不合理なものということはできない。
(一) 固定資産税の賦課事務が、大量・反復事務であることを考慮すれば、右事務を公平・迅速に行うためには、地方税法三四八条二項四号の「墓地」に該当するか否かの判断は、客観的な基準により一律に行うことが相当であり、そのためには、墓地法による墓地として許可を受けた区域であるか否かによって判断するのが、最も簡明かつ客観的で、右賦課事務を公平・迅速に行うのに適している。
(二) ところで、墓地法によると、墓地とは、以下のように定義されている。
(1) 墓地とは、死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設、すなわち、墳墓(墓地法二条四項)を設けるために、墓地として都道府県知事の許可を受けた区域をいう(同条五項)。
(2) 右にいう許可は、同法一〇条に規定する、墓地を経営しようとする者が知事から受ける許可をいうが、同条にいう「経営」とは、墓地を設置し、管理し、運営することをいい、したがって、「企業経営」という場合に用いられる語義より広義に解釈されるもので、たとえば、自己所有の土地を使用し、自家用の墓地のみを設置した区域(いわゆる「個人墓地」)も、墓地として同条の許可を要するものである(昭和二七年一〇月七日衛環第八八号・厚生省環境衛生課長から長野県衛生部長あて回答、同年同月二五日衛発第一〇二五号・厚生省公衆衛生局長から京都府知事あて回答、昭和四一年九月二一日厚生省環第八四〇号・墓地、埋葬等に関する法律第一〇条による墓地経営許可申請に対する不許可処分に係る審査請求に対する裁決)。
以下によれば、実際に墓地として使用されている以上、営利目的でなくても、なお墓地法一〇条の許可を要するのであるから、右許可を得ていない以上、墓地として使用されていないとみなす取扱いをしても、不合理であるとはいえない。
(三) 原告は、相続税法では実際の使用に着目して、非課税財産である墓所等に該当するか否かの判断がなされているから、固定資産税、都市計画税の賦課事務においても、同様の取扱いがなされて然るべきである旨主張する。
しかしながら、相続税において墓所等が非課税とされたのは、民法上、系譜、祭具、墳墓等のいわゆる祭祀財産が相続財産とは別個に承継されることとされている(同法八九七条一項)ことを前提にして、これらの財産については、相続財産から除外されているとの考えに立つからである。これに対し、地方税法において墓地等が固定資産税の対象から除外されたのは、墓地等の公共的施設の性格、事業の公益性等にかんがみ、法人税(同法七条、同法施行令五条五項二)、特別土地保有税(地方税法五八六条二項二八号)等と同様に税制上の優遇措置を与えたものであって、その非課税とする理由が相違する。
したがって、被告主張のように相続税法の墓所と地方税法の墓地との解釈を同一にしなければならない理由はなく、前記原告の主張は失当である。
3 したがって、本件土地が地方税法三四八条二項四号の墓地に該当しないとの判断のもとに行われた本件各処分に、重大かつ明白な瑕疵があるとは認められない。
三よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求には理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官浦野雄幸 裁判官杉原則彦 裁判官岩倉広修)
別紙<省略>